時代は、優位性より「協調」と「対話」に
重きを置く流れとなっているとも感じています。
今はまさにその変革期。さまざまな混乱が生じ、悪しきことが膿のごとく溢れでてきているのではないでしょうか。
そして今後、森羅万象に八百万の神を感じ、
神仏習合の中で培われてきた受容の精神を宿す日本人の感性、
調和と協調、余白の美を直感的に感じられるセンサーはこれから重要なものとなっていくはずです。

さて、私は2020年にインドのタラブックスが制作した『夜の木』という絵本に出逢いました。
そのときの衝撃を昨日のことのように覚えています。
インドの少数民族・ゴンド族に語り継がれている森の精霊にまつわる物語を描いた極彩色の絵。
それを古布から再生した独自の黒い紙にスクリーン印刷し、
手綴じした完全ハンドメイドの本の裏面にはシリアルナンバーが施されていました。
その佇まいは実に美しく、触ると温かみがあり、いつまでも眺めていたい、
そして、その本を所有していること自体が嬉しくなる、そんな絵本だったのです。

この本は世界中にコレクターがいて、
中古本は値が下がるどころかどんどん値が上がっていっています(日本語訳も11刷となっています)。
長らく出版業界にいる私にとっては、いかにトレンドに沿った著名人の売れる本を制作するか、
が常識となっていましたが、インドのタラブックスはその真逆の本作りをしていたのです。
そして、「インド独自の文化や精神性が宿る美しい本が存在しているなら、
日本独自の美しい本、日本の精神性を宿した本をつくりたい」と強く思ったのです。

また、以前より親交のあった和紙総問屋の方より、
「最近は伝統工芸の仕事に関心を持つ若い人が増え、職人になりたいと門を叩く人も結構いる。
けれど、実際は商品を作っても需要がなく、人を育てる余裕がない。
職人はどんどん高齢化し、伝統を継承していきたいのに本当に困った状況が起きている」との話を伺っていました。
それなら自分は、その需要を作る側にまわりたい、と常々思っていたのですが、
それが『夜の木』と出逢ったときに、
「日本の伝統工芸(和紙)」×「書籍(絵本)」という発想に結びついたのです。

読み終えたらすぐにリサイクル市場に出されるような本ではなく、
「所持していることが嬉しくなる本」「一生大切にしたい本」「買うことが伝統工芸の支援につながる本」づくりを目指し、
ぜひご一緒していただきたいと思った方々にお声をかけ、
「JAPAN CRAFT BOOK プロジェクト」を立ち上げました。
「JAPAN CRAFT BOOK」という言葉がやがて世界で一人歩きしていくように進めて参ります。
なお、このプロジェクトはさまざまな人の輪が広がってこそ、より良き方向へ向かうと信じています。
ともに愉しんでみたいという方、ご連絡ください。よろしくお願い致します。

JAPAN CRAFT BOOK プロジェクト 代表

稲垣麻由美